豊かさということ
さまざまな分野でものづくりをされている職人のかたへの聞き書きである。初対面から胸襟をひらいた話がされているのは、インタビュアー=著者の小関氏じしんも一流の職人であることがおおきいと思われる。 もちろん、本書の魅力は、何よりも日本の職人芸のすばらしさを伝えること、そしてそれが人間性というものと密接にかかわっていること、なのだろうが、さらにわたくしは自分たちの先祖がこれらの職人芸を堪能できたという豊かな生活を享受できていたのに比べて、椅子にせよ布団にせよ「ホンモノ」から遠ざかる生活をせざるを得なくなっている現実が透けてみえるような気がする。これは実はモノにかぎらず、ここで登場している「衣」と「住」いがいの「食」に関しても同じことがいえると思われる。つまり、材料レベルにおいても、調理レベルにおいても、われわれは「ホンモノ」の食事からどんどん遠ざかってしまっている、という現実がある。 人間にとって仕事とは何か、という重い問いかけのほかにも、豊かさというものについてもまた一考を迫られる良書である。ぜひ中高生にも読んで欲しいと思う。
職人たちへの慈しみに満ちている
『鉄を削る −町工場の技術−』の著者でもある小関智弘さんが、全国各地の様々な技能者に聞き取り取材を行い、とりまとめた書物である。 題名から受ける印象と内容がなんとなく違う感じがするのは、対象者の生き様に焦点を当てるのか仕事への情念を主に紹介するのかが絞り切れていないからだと思う。でも、小関さんの語り口はいつもながらとても読みやすく、それぞれのユニークな人物像が興味深く描かれていて面白かった。 聞き取りの対象となったのは、研削工、染色工、大工など、一般的に「職人」と呼ばれる人々から、歯科技工士や高木の剪定を行う『山師』まで様々。共通しているのは、みんな手先や身体を使う仕事をされているということである。 「行き方として器用に立ちまわれない人たちが、その手先から、社会には欠かせないさまざまなものを作り続けている。こんなケチな仕事、こんなつまらぬ仕事と、わが身を呪いながらも、いざそのものに向き合えば精魂を込めてしまう。それが多くの職人たちの性(さが)だろう。」 小関さんの言葉は、職人たちへの慈しみに満ちている。 かつての高度成長期といえば、利益や効率が最優先される大量生産・大量消費の産業システムを思い浮かべてしまうが、あの成長を本当に支えていたのは、技術者ひとりひとりの、仕事に対する誠実な態度だったのではないかと思う。 今ものづくりが見直されているというが、マニュアル化された上滑りの技術とは違う何かがないと、けっきょくまた経済効率優先の波に飲み込まれてしまうことになるだろう。 そうならない鍵は、伐採した木の行く末を案じる優しさであったり、開発のリスクをあえて引き受ける勇気だったりするのかも知れない。
岩波書店
ものづくりに生きる (岩波ジュニア新書) 職人学 町工場 世界を超える技術報告 (小学館文庫) 職人力 町工場・スーパーなものづくり (ちくまプリマーブックス)
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